★ 銀幕死刀伝 鬼三味線之談 ★
クリエイター諸口正巳(wynx4380)
管理番号100-4232 オファー日2008-08-25(月) 19:02
オファーPC 清本 橋三(cspb8275) ムービースター 男 40歳 用心棒
<ノベル>

 べ・べん。
 きゅゥゥゥゥんんん、
 べ・べ・べん。

 はア、あの子のととさまどこ行った。
 どこ行ったったらどこ行った。
 はアーァア、お気の毒さんご苦労さんで。
 鬼の弾きたる三味線に、
 つられて歩いて御ン首ポロリ。
 はア、くわばらくわばら、
 御ン首ポロリのコウロコロ。はア、コゥロコロったらコゥロコロ。

 べんべんべんべんべんべん、
 はア、
 コウロコロのべんべんべん。


「む、何奴!」
 スらぁ、り。
「ごは!」
 どさん。

 そんな音のやりとりを、〈鬼〉は九百九拾八ぺん聞いた。
 秘剣ともてはやされた業は、九百九拾八ぺん炸裂した。
 鬼の魂、肉体、脳髄には、人の斬り方が壱千通りも沁みこんでいる。愛刀は、血と断末魔を数ごとに、切れ味は鋭く、刃の輝きは美しくなっていくようだった。
 黴と垢と血で黒ずんだ笠の下、鬼が牙を剥いてニイイと哂う。否、その歯は牙にあらず。黄ばんだ乱杭の歯の先は、欠けたり折れたり砥がれたり、人の手によって牙に見立てられているのだ。
「美しい、おまえはほんに美しい」
 今しがた、九百九拾八人目の肉に喰らいつき、血をすすったばかりの刀。しかしその刃のうえには、すでに血も脂も浮いていない。鬼はうっとりと刃を眺めるばかり。懐紙を取り出す素振りすら、見せていなかったはずである。刀が血肉を、その鋼の身中に吸い取ったというのだろうか。
 九百九拾八人。今宵は抜き打ちの一手で決めたが、ただの一手で決まらぬ勝負も少なくはあった。〈鬼〉は単なる辻斬りではなかったのだ。彼が選ぶ獲物は、「つわもの」に限られた。刀は鬼にささやき、鬼はずば抜けた直感で、宵を歩く者が「手強い」かどうか、判別がつくのだ。
 今宵は、運良く最初の一手が決まっただけだ。たとえ一手で勝負が終わってしまっても、〈鬼〉が不満に思ったことはない。勝負の内容を愉しんでいるわけではなかった。つわものの血肉を愛刀に捧げられれば、それで満足なのだ。
「おまえに壱千の血肉を味わわせるまで、あと弐つ。いつかおまえと交わした契りを、俺が見事果たすまで、あと弐つ。あと弐つの血肉を喰ろうた日に、おまえはどれだけの姿を見せてくれるのであろう。おまえに喰わせる血肉は、あと弐つ……」
 刀がものほしそうにきらりと光る。
〈鬼〉は牙を剥き出して、腹の底と喉の奥で、くつくつと笑みを転がした。
〈鬼〉は千人斬りを誓っているのだ。いとしい刀に、千の命を喰わせてやると。
 ざしっ、ざしっと、草鞋が固い地面を歩む音。
 二尺八寸の長さの牙が、きらりきらりと月の光をはね返し、しばらくは、〈鬼〉とともに歩んでいた。
 やがて――
 スらァり、
 ち・ン。
 地上を漂う三日月は消えた。〈鬼〉が口を閉ざし、その牙を夜闇の中に隠したのである。

 鬼が歩む固い道は、アスフアルトと云うものでできていた。砂利と土の上にかぶせられ、まったいらにならしている、黒とも灰ともつかぬ、人工の石。
 鬼が歩む道のまわりを囲むのは、コンクリイトでできたビルヂング。
 そして血飛沫が咲いたところには、一巻のフイルムが転がっているのであった。
 その鬼は、江戸に生きているのではない。
 平成の、銀幕市を闊歩している。


          ★  ★  ★


●銀幕ジャーナル 8月△日号 第一面

  ★ 重要 ★ ムービースターの方は必ずご覧下さい。

  午前2時から午後5時までの間、ダウンタウン南エリアでの外出はお控えください。
  現在、戦闘能力の高いムービースターを中心に狙う殺人鬼系ムービースターが出没
  しているものと思われます。
  特に時代劇や歴史大河系の映画ご出身のムービースターの方はご注意ください。
  なお、この事件に関しては現在調査中です。早急に対策方法を決定いたしますので、
  追って紙面および対策課掲示板にてご連絡いたします。

                              銀幕市役所 対策課』


「九百九拾九人目……」
 それは、あの男だ。
〈鬼〉の気は逸っていた。九百九拾九人。なんと焦れったい数であろう。この数を乗り越えねば、壱千には届かぬ。そうでありながら、大願の壱千はもはや目前なのだ。
 壱千、壱千人目を早く選びたい。しかし、だからといって九百九拾九人目をおろそかにはできぬ。このところ、〈鬼〉が狩場に選ぶ道は、夜の人通りがうんと減った。さすがに壱拾も斬ってしまえば、民の耳にも辻斬りの報せが届くというものだ。
知らぬ間に、江戸からこんな奇妙な町に移ってしまったが、〈鬼〉は壱千人斬りの場所にこだわるつもりはなかった。壱千人を斬り、壱千の味を刀に与えるだけでいいのだ。町を変えてからすでに壱拾人を斬った。あと弐人、弐人で終わるのだ。
そのうちの壱人は、あの男である。
 笠はかぶらず背に負って、大刀も腰には差さず無造作に担いでいる。口に何か白く短い棒をくわえていた。楊枝より長いが串よりも短い、半端な長さの棒だ。ちろちろと、唇の隙間を行ったり来たりしている。
 髪は結っているのかどうかもわからないほどぼさぼさに伸びている。黒い着流しはさほど質の良いものではない。だが、あの刀、目つき、たたずまい、足の運び方。〈鬼〉にはわかる。あの男は、九百九拾九人目に相応しい士であると。
 影に身を潜める〈鬼〉のそばに、浪人らしき男は近づいてくる。月を背にした顔立ちが、ぼんやりと鬼の目にも見えてくる……。
 ――はて、見た顔だな。しかし、名は知らぬ。知らぬ町で、知った顔に出会うとは……。
 笠の下の暗黒で、〈鬼〉の乾いた唇が歪んだ。赤い肉を喰われた、西瓜の皮のかたちに。
 ざシ、とアスフアルトを踏む音に、
 ざ、とアスフアルトを歩いていた音が止まる。
「なんだ」
 かろろろ、と奇妙な音だ。浪人の口の中で転がる音だ。どうやら、飴を舐めているらしい。林檎飴よりも随分小さい飴のようだ。飴混じりの怪訝な声が、〈鬼〉の鼓膜を確かに揺らす。
「そこをどいてくれ」
 ぶっきらぼうに彼は言ったが、その目つきの変化を鬼は見逃さなかった。
 月よりも冴えた光であった。
 それこそは、つわものの光!

 しゅらッ、
 ぴヒん!

「ぅおああああぁああッ!」
 見事な断末魔を上げて、浪人はのけぞった。牙がばっさりと肉に喰らいついた感触は、〈鬼〉の手にしかと伝わってくる。
「かッ!」
 目を見開いた必死の形相で、浪人は後ろに一歩よろめいた。
 口から黄色い飴がこぼれ落ちた。
「ハ!」
 妙にするどい息をついて、また一歩よろめく。
「あぁぁ……」
 恨めしげな一瞥を鬼にくれたあと、キリリと半回転して、浪人は倒れた。結局鞘から抜かれないまま、彼の刀も地面に転がる。固い地面で跳ねた刀は、固い音を立てた。浪人が倒れた音よりも、硬質な雑音はやけに大きく町並みに響く。
 よい斬られっぷりだ。
〈鬼〉は奇妙に感心していた。
 突然現れた修羅に突然斬り殺されたにしては、あまりに魅せる死に様だったではないか。まるで「ト浪人ここで斬られる」とト書きが入った台本をなぞったかのようだった。
 とまれかくまれ、これで九百九拾九人。ついに九百九拾九人だ。
「――美しい。おまえはほんに、美しい」
 九百九拾八回そうしてきたように、〈鬼〉は刀の切っ先を天に向け、しばしうっとりと見とれていた。今しがた、飴の浪人を斬ったはずなのに、やはり刀には血も脂も浮いていない。
「いよいよだ。いよいよ、残すところはあと壱人……」
 くつくつくつと鬼は笑って、浪人の骸の前できびすを返した。
 しばらく、愛刀は抜き身のままで歩いていた。
 黄色い飴からは、甘い匂いが漂っている。砂がつき、夜更かし中の蟻が一匹、触覚をくねらせながら近づいてきた。
 空に月。半端な十三夜月である。

 その夜、壱千人斬りをもくろむ〈鬼〉の犠牲者は出なかった。


          ★  ★  ★


 月はあと一日で満ちるだろう。
〈鬼〉はふと迷ったが、結局、今日成し遂げることにした。満月の日に壱千人斬りを達成するというのもきりがよく、奇怪な風情もあるのだが、気が逸って仕方がなかった。
 いやに蒸し暑い夜だ。昼間もひどい暑さだった。日が沈んでも、夕暮れ時の気温が保たれたままだった。今はこういった夜を、熱帯夜と云うらしい。
 しかし、鬼が感ずる空気は、さして暑くもなく、寒くもなかった。蒸し暑さに愚痴をこぼすどころの騒ぎではなかったのだ。気温など、どうでもよかった。
 あと壱人……。昨日の飴侍で九百九拾八人を斬った。あと壱人で壱千人。誰もが自分の刀と業に畏れおののくだろう。
 だが、いつものように物陰に溶けこみ、獲物を物色していた〈鬼〉は、そのとき、驚愕した。

 何故だ。
 あの飴侍ではないか。

 今日舐めているのは、飴ではないようだ。かなり短い小太刀の柄のようなものの上で、白い泡がとぐろを巻いている、なんとも奇妙奇天烈なものだった。舶来品だろうか。昨日は刀を担いでいたが、今宵はその妙なもので右手がふさがっているからか、刀を腰に差している。
 昨夜、確かに斬ったはずだ。
〈鬼〉はごくりと固唾を呑んだ。
 肉を裂いたあの感触は、思い違いによるものだったというのか。あのとき咲いた血の華の匂いも、まぼろしだったというのか。
「いや、丁度良い」
 鬼はそこで笑ったのである。
「壱千人目を喰わせるのは、明日にしようかと思うていたのだ」
 今宵は、九百九拾九人目を斬る夜。
 ざし、とすばやく浪人の前に飛び出す。
 む、と浪人はするどい目をすがめ、足をとめた。昨夜とは違い、左足を後ろに引いていた。「身構えた」と言っていいだろうが、妙なものを右手に持ったままだ。しかも口のまわりにすこし白い泡がついていた。
「ゆうべも会ったな」
 浪人はむっつりと言った。
「おまえさんのおかげで、四半刻ももつと云う『ちっぱちゃっぷ』を、早々に蟻に取られてしまったぞ。あれはひとつだけ残っていた『ぷりん味』だった。その上今宵はこの『そふとくりいむ』まで無駄にさせようと云うのか」
「貴様が九百九拾九人目なのだ」
 このときは、鬼も浪人も、互いの言っていることがわからなかった。
〈鬼〉が血に餓えた刀を抜いた。浪人は手にしていたそふとくりいむを投げ捨て、刀の柄に手をかけた。
〈鬼〉が早い!
 何せ、彼にはそふとくりいむを落とす刹那だけ、時間を与えられていたのだから。
 ぴひゅう、と鬼の牙は再び唸った。
 確かに確かに、浪人の身体を袈裟懸けに斬った。浪人は、今宵は刀を抜いていた。鬼の目は、彼の刀も相当の業物だと一瞬で見抜いた。しかし、その業物は、刃を受ける暇さえなかった。
「ぐぉおあああア!」
 またも上がった見事な断末魔に、ぺちゃ、とむなしい音が重なる。そふとくりいむなるものが、地面に落ちて潰れた音だった。
「むっ……む……む、無念……ッ……!」
 一刀も交えられずに死ぬのが無念か、そふとくりいむを落としたのが無念なのか、わからなかった。浪人はまた、キリキリ円を描いてからどうと倒れた。侍の意地か、倒れても抜いた刀を離していなかった。
 間違いない。
 確かに殺した。間違いなく斬った。血の匂い。手に残る、重い衝撃。
 今度こそ、九百九拾九人目……。
 蝉が鳴いている夜、空には満ちかけた月。

 しかし結局その夜も、九百九拾九人目の被害者は出なかったのだ。


「おお。また会ったな」
 満月の夜に〈鬼〉が出くわした浪人は、もう、何も買い食いしていなかった。
「また会うだろうと思ったが本当に会った。今日の俺は暮六ツから甘味をひとつも食っておらぬぞ。おまえさんのお陰で台無しになるやもしれぬからなあ」
 この浪人は斬られるのを覚悟で生きているのか。
 いや待て、どうして生きているのだ。確かに確かに斬ったのに。
「甘味の無い夜の、何と味気無く、何と腹正しい事……!」
 この夜は、浪人のほうが、早かった。〈鬼〉が驚き、戸惑い、戦慄していたがゆえに。
 ざリん、と火花が散った。〈鬼〉は鉄拵えの鞘で浪人の初撃を受け止め、直ちに抜いた。あとは本能と闘争が、恐怖と不可思議を跳ね除けてくれた。
 九百九拾九人目。いつまで経っても、九百九拾九人目……。
 ざんばらの長髪の奥で、侍の目はするどく光る。二刃よりもあざやかに輝く。まるで死など恐れぬ目つき。〈鬼〉の打倒に燃ゆるでもなく。
 ――これは、この士は。死を超え、死を亡き者にするというのか。
〈鬼〉は足を繰り出した。浪人の急所を容赦なく蹴り上げた。そのときばかりは、さすがに、侍の表情に一瞬の恫喝が浮かび上がった。
 この卑怯者!
 びスん、その顔めがけて牙を振り下ろす。


 月が欠けゆく……、月が…………月が…………。


「よう、おまえさん。また会ったな」
 うんざりした声色で、今宵も、〈鬼〉に斬られたはずの浪人が言う。
 相も変わらず、実によく晴れた夜。
 月が欠けても、月が消えても、いつまで経っても九百九拾九人目。
〈鬼〉もいい加減、うんざりしたかった。しかし、今や、〈鬼〉には戸惑う余裕もなくなっていた。腹を斬っても、頭を斬っても、この男は死なないらしい。いや、死ぬたび生き返っているのか。この男は、地獄の閻魔や鬼からも見過ごされているのか。
「夜になるたび斬られるのも、そうそう楽ではないのだぞ」
 浪人は、うんさりした声色に、自虐的にも見える笑みを乗せた。しかし、恐れおののく者にとっては、ただの、不敵で不吉な笑みでしかなかった。
 昨晩などは、この浪人と夜道でばったり会って、彼が「あ」と声を上げた瞬間、〈鬼〉は抜き打ちで斬りつけ、ほうほうのていで逃げ去っていた。すでに牙は、逃げるために振るわれていた。昨晩の浪人が何か食べていたか、何か持っていたかなどは、目に留めるいとまもなかった。
 だが、きっと、何も食っていなかっただろう。
 甘味よりも甘美な獲物を見つけたと、その目が語っているかのように、〈鬼〉の目には映っていた。
「ところで、おまえさん」
 浪人はその目とその笑みで、思い出したかのようにつけ加えた。
「初めて斬られたあの夜から、ずっと思っていたのだが。……おまえさんの刀は、相当な業物だな。うむ、見惚れるくらいの業物だ。俺の刀もそんじょそこらのなまくらとは違うが、おまえさんのそれにはかなわぬな」
 欲しい。
〈鬼〉の耳には、確かにそう聞こえた。
 その牙が欲しい。貴様が持っているその牙が。
 刀は〈鬼〉の総てだった。この刀のために、鬼は九百九拾八人も斬った。この刀を、無比のものにするためだけに……。

 欲しい、寄越せ。さもなくば貴様の命ごと、俺が獲って喰ってやる。

〈鬼〉は腹の底からの叫び声を上げて、愛刀を浪人に投げつけた。鞘ごとだ。
「ぅぬおっ!?」と意表を突かれた呻き声を背に、〈鬼〉はわめきながら走り去った。


          ★  ★  ★


●銀幕ジャーナル 8月×日号

 銀幕市対策課、清本橋三氏に感謝状

  8月中旬頃より銀幕市ダウンタウン地区で起きていたムービースター連続殺傷事件が、
  ムービースター清本橋三さんの活躍により解決されたことから、本日付で対策課は氏に
  感謝状を贈りました。
  これに対し清本さんは「特に何もしていない。毎晩斬られていただけ」と謙虚なコメント。
  犯人は現在、銀幕市警察病院精神科に入院中です。



「ううむ」
「自分の記事見てそんなむつかしい顔することありますかい、先生」
「いや、本当に、俺自身、何が起きたか皆目見当がつかぬ。一体全体、あの辻斬りは何者で、何がどう巡って俺に感謝状などが……」
「そりゃア先生、斬ったはずの相手が夜な夜な目の前にふらふら現れちゃ、肝も潰れるもんでしょうよ」
「あア、今朝早く、泣きながら番屋に飛び込んでったの、見ましたぜ」
「泣きながら?」
「そりゃ傑作だ、ハハ」
「『不死身の鬼が俺を殺しに来る』ってね。『尻子玉抜かれちまうから助けてくれ』って、そりゃアもう、餓鬼みてえな泣きっぷりでさア。思わず足止めて聞き入っちまいましてね。そしたら、そいつの言うおっそろしい鬼ってぇのが、どう聞いても先生のことで。おれァおっかしくって腹ァよじれました」
「ハハ、やめろ、おれの腹もよじれるだろォが、ハハ、アハハハハ」
「飴舐めながら斬られる侍なんて、先生くらいのもんでさア、ハハハハハ」
「……俺は、鬼になった覚えはない。だいいち、尻子玉を抜くのは河童だろうが」
「ハハハハ、河童か。ハハハハ、ともかく妖怪ってエことだ。アハハハハ」
「そういや先生、この刀、あいつからもらったんですって?」
「そうだ。と言っていいものかどうか。よくわからんがわめきながら投げつけてきた。そしてまともに額に当たってだな……」
「あ、それでそんなとこに膏薬貼ってンですか。斬られた傷は一瞬でなかったことになるのに、打ち身はそのまんまなんですなア」
「……。――おい、あまりそいつに触るな」
「いいじゃねえすか、減るモンじゃなし。へへ。――ぅわ、いやア、こいつはすげえ。相当なワザモンだ。惚れ惚れしちまいますなア」
「見ただけでわかるのかよ、おめえなんかが」
「わかるさ! わかるとも。ほうら、何だか、無性に、こいつで人を斬りたくなってくる……それくらいの……」
「お、おい」
「ワザモンだ……へ、へ……」


 べ・べん。
 きゅゥゥゥゥんんん、
 べ・べ・べん。

 はア、月夜の鬼さアどこ行った。
 どこ行ったったらどこ行った。
 はアーァア、お気の毒さんご苦労さんで。
 十五の夜の望月にしこたま呑んで、
 破れざむらい御ン首さくり。
 はア、くわばらくわばら、
 御ン首さくりのどうくどく。はア、どぅくどくったらどぅくどく。

 べんべんべんべんべんべん、
 はア、
 どぅくどくのべんべんべん。



〈了〉

クリエイターコメントこのたびはオファーありがとうございました。いぶし銀の雰囲気の中に腰がゆっくり砕けるようなそこはかとないギャグを織り交ぜてみたのですがいかがでしょう。30分もつキャンディはマンダリンオレンジが美味しいです。プリン味の甘いことといったら……。
公開日時2008-08-27(水) 22:20
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